【浅い話も深く飾れ。】

トイレで読んでほしいエッセイです。

【浅い話も深く飾れ。】 *第2話*感情通りに身を委ねる*

 

 

 

人間には感情がある。

 

 

喜び、怒り、悲しみ、などはわかりやすいが、

その他に、恥じらい、もどかしさ、驚き、など数多くの非常に繊細な感情も持つ。

 

 

私は長年、人の感情は一体いくつあるのか、とても気になっているのだが、

今回着目したいのは、まだ名前が付けられていない感情、

 

 

“名もなき感情“

 

             

がきっと存在するはずだということである。

 

 

 

最近になって新しい元素が発見されたように、

まだ発見されていない感情・もしくは我々がまだ気づいていない感情が

きっとあるはずなのだ。

 

 

 

人はこの世界のあらゆるものに名前をつけることで、

どうにか安心感を得ようとする。

 

 

 

「あ、これは○○だよ」というように。

 

 

なぜなら我々は、人智を超える、未知の世界の中で生きているからだ。

 

そして、人は、まだ名前がないもの、正体がわからないものに出会ったとき、

戸惑いと不安を感じるのである。

 

 

        

話を戻すが、最近私はなんと、ある“名もなき感情”に出会ってしまい、

非常に戸惑ったのだ。

 

 

 

それは、深夜2時、タクシーの中で生じた。

 

 

その日も終電が無くなるまで飲んだため、私はタクシーに乗り込んだ。

 

 

車内には通常、運転手さんの名前と顔写真が公開してあるが、

さらに“趣味”まで公開してくれている非常にフレンドリーなタクシーもある。

 

 

初対面の人の趣味をこんなにも早く知ることのできる場所は

おそらく世界を見渡しても稀有で、

もしこれが合コンで、席についた途端趣味を聞いたとしたなら、

変な空気になることまず間違いないだろう。

 

 

しかし私は運転手さんの趣味が書かれたプレートを見るのは割と好きなほうで、

いつも何となくチェックしてしまう。

運転手さんの素顔・人となりが見える気がするのだ。

 

 

その日も、僕が乗ったのは、「趣味公開タクシー」だったため、

いつものように趣味が書かれたプレートに目をやった。

 

 

 

すると、そこにはなんと、

 

 

            

            

『私の趣味は、 ドライブ  です。』

 

 

 

             

と書かれてあったのである。

 

 

         

私は、その瞬間、言いようのない何か不思議な感情に襲われた。

 

 

嬉しいのでもなく、悲しいのでもなく、

ただ今私を乗せてくれている運転手さんは、

「みなさんプレートに自分の趣味を書いてください」と

言われたときに、

「ドライブ」という四文字を、

ぱっと迷いもなく書いたのか、

もしくは、悩んで悩んで、ほかに特に思い当たるものもなく、

「ド、ラ、イ、ブ」と

仕方なく書いたのかのおそらくどちらかで、

そして私は今、ドライブが趣味の方のタクシーに乗って

家までドライブ?しているわけで、

嬉しいのでもなく、悲しいのでもなく、

なんだかよくわからない感情を抱きつつ、

うっすら雪が降る冬の環状通に身を委ねながら帰ってゆくのでした。

 

 

 

 

 

*今日も、深く飾らせていただきました。

 

 

 

 

【浅い話も深く飾れ。】では、23歳会社員(男)が日々の生活の中で感じたどうでもいいことを、盛りに盛って誇張しまくって仰々しく綴ります。暇な人だけ見てください。トイレの個室で見てください。